どうせなら見せちまえ!
From:関谷はやと
三栄自動車の事務所にて。
以前このメルマガでも話題にしましたが、
ドイツのフォルクスワーゲンが誇る、
世界的なベストセラーカーに、
『ゴルフ』というモデルがあります。
この『ゴルフ』は、
カブトムシの形で有名な『ビートル』と並んで、
フォルクスワーゲンの、
二枚看板モデルのうちの1台です。
そしてこの度、
ラインアップの中に、
『ゴルフe』と呼ばれる電気自動車
(EV)が加わることになりました。
ついにゴルフにもEVが登場か・・
これも世の中の流れですね〜
ちなみに、
世界の市場レベルで見ると、
今の時点で、
電気自動車市場をリードしているのは、
日産とアメリカの『テスラモーターズ』です。
ただ、どっちかというと、
元々が少数派の電気自動車市場です・・
いくら世界一の生産規模を誇るワーゲンでも、
そういった少数派市場に、
新規参入で食い込んでいくのって、
そうそう簡単なことじゃないはずです。
例えるなら、
マイクロソフトが、
タブレット端末の創生期に、
『ipad』
と同じ端末を作った時のような感覚です。
しかし!!
そこは自動車産業の歴史そのものを、
常にリードしてきた企業だけのことはあります。
ワーゲンは、
『電気自動車そのものを売る』
という目的の前に、
『ゴルフe』という電気自動車にまつわる、
『ストーリー』を買ってもらうことに、
経営資源を投入しました。
具体的には、
『ゴルフe』を取り巻く、
様々な『ストーリー』を、
これから買ってくれるお客様のために、
紹介していくことです・・
その一つが、
『ゴルフe』の組み立て工場を、
『見学コース』にしてしまうことでした。
ところで、
自動車組み立て工場の見学コース自体は、
たいていの自動車メーカーが設けていますが、
でもそれは、あくまで、
世の中にたくさん出回っている、
『量産車』と呼ばれるモデルの話で、
ゴルフeのような最新車の場合は、
その生産方法自体にも、
色々なノウハウや企業秘密が、
至るところに詰まっています。
そのため情報流出の観点からすると、
最新車の工場って、
たとえお客様であっても、
なるべくなら、
『見せたくない工場』なんですね・・
ちなみに車に限らず、
製品を作っている企業にとって、
最新設備や施設を見せる、というのは、
『手の内をさらす』ことです・・
これって『大冒険』か、
反対に『無謀な行為』のどちらかです・・
しかしワーゲンは、
『どうせなら見せちまえ!』
という方法をとりました。
しかも従来の『組み立て工場』とは、
全く違うアプローチで・・です。
まず工場のレイアウトを、
オフィスビルか、
ホテルのフロントのような作りにして、
工場にとっては必需品ともいえるくらいの、
『コンベア式生産ライン』を廃止し、
その代わりとして、
フロアに木製の床材を敷き詰めました。
その広いフロアに、
1台ずつテーブルを設置し、
テーブルの上に乗せられた『ゴルフe』を、
数人の作業者が手作業で組立てます。
ところで、
木製のフロアというのは、
コンクリート製のフロアと比べて、
クッション性や保温性に優れているので、
足への負担が少ないです。
ただ、木では汚れが目立ちますし、
衝撃で傷ついたりもしますので、
どっちかというと、
『工場のフロア』には不向きです・・
それでも、
ゴルフeのような車を買ってくれるお客様って、
そのほとんどが、
『環境問題』や『洗練された製品』に、
とても関心がある人たちなので、
こうやって、
従来の工場が持っているイメージと、
あえて全く違うレイアウトにすることで、
お客様が、
ゴルフeに期待している商品のイメージを、
さらに超えた『特別感』とか、
『手作り感』が伝わる結果となりました。
このやり方って、
僕が思うに、
『カウンターのあるお寿司屋さん』から、
相当なヒントを得ているに違いないと思います(笑)
食べ物でも製品でも、
作っているシーンを直接見ることで、
料理を食べた時や製品を手にした時の、
『感動や満足の度合い』がさらに高くなることを、
ワーゲンはよく理解しているんでしょうね・・
でも実際に行動するとなると、
頭では分かってはいても、
これは相当な勇気がいることです。
さらにユニークなのは、
ワーゲンの工場だけじゃありません。
ゴルフeを生産するために、
ドイツ国内各地から、
数千点といわれる部品を調達していますが、
その納入方法として、
エンジン付きのトラック輸送じゃなく、
代わりに『路面電車』を使って、
部品を納入してもらうことにしました。
たしかに、
排気ガスを出さない電気自動車を造っている工場に、
エンジンのついたトラックで部品を運ぶのって、
言われてみれば、、
『えっ・・??』というか
『そりゃあ本末転倒やろ』みたいな感じですよね・・
こうしてワーゲンは、
本来は裏方としての部品納入業者、
『サプライヤー』までも、
ゴルフeにまつわるストーリーの一役として、
表舞台に取り立てました。
おかげで、
路面電車による部品納入の割合が、
なんと!!
全部品の90%にまでなったそうです。
こんな風にしてワーゲンは、
ゴルフeという電気自動車で、
新たな市場に参入し、
それを成功させる方法として、
従来の常識にとらわれない逆転の発想で、
見学コースを作り、
お客様を巻き込み、
部品の納入方法では、
サプライヤーも巻き込みました・・
世界一を誇る超巨大企業にもかかわらず、
ここまで斬新なアイデアを使って、
新規参入してくるワーゲンって、
あらためてスゴイ会社だと思います。
僕も、うかうかしてはいられません!
関谷はやと
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