透明な金属　

From：関谷はやと

三栄自動車の事務所にて。

『君たちがしなければならないのは、
透明な金属を作ることだ！』

こう言ったのは、

ドイツの自動車メーカーの経営者でした。

ベンツだったかＢＭＷだったか、
メーカー名までは忘れましたが・・

僕が３０年近く前に読んでた、車雑誌の記事の１コマで、

自社の開発技術陣に向けて言ったそうです。

どういう事かというと、

ボディーに使われている『金属』が、

透明なプラスチックみたいになれば、

その分車の重量が軽くなって、

燃費が良くなるじゃないか！

という発想から出た言葉だったんですね。

当時から、ドイツの自動車メーカー各社は、

『車が環境に与える影響』のことを、

自社の経営方針に盛り込むほど

とても気にかけていました。

そういった面では、
日本の自動車メーカーよりも、
進んだ考え方を持っていたと思います。

ただ、原料そのものの性質から、

金属に『透明』なものは存在しません。

なので、その雑誌の記者は、

経営者の発言に対するコメントとして、

『少しでも冶金学（やきんがく）を学んだものなら、

それが不可能なことは、すぐ判るはずだ・・』と、

ちなみに『冶金（やきん）』とは、

鉱物のような原料から『鉄』や『○○合金』

といった材料に加工することを指しています。

ところで、

当時の僕はというと、

ちょうど自動車製造メーカーで、

ボディー製造現場の技術者として、

働いていたこともあって、

『透明な鉄なんて無理やろ・・』と、

この雑誌記者と同じ考えでした。

しかし！

科学の力、、というより、

日本の科学者って、スゴイですね〜

鉄よりも５倍の強度を持ち、重量も５分の１という

『セルロース・ナノ・ファイバー（ＣＮＦ）』
と呼ばれる素材を、

植物の繊維から作りだすことに成功したんです。

僕は知らなかったんですけど、

この技術は３〜４年ほど前から、
自動車業界でも注目されていて、

この最近また急に取り上げられ始めました。

そうなると、

実際の原料は金属じゃなく『植物』ですが、

３０年前に、ドイツ車メーカーの社長が言った、

『透明な金属』というのが、いよいよ現実となって、

車のボディーに使われるようになるかも知れません。

しかし！

この最近になって急に、

『セルロース・ナノ・ファイバー』という単語を、

いろんな場所で目にするようになったことで、

『もしかしたら・・』という、

新たな憶測を生むことになるとは思いませんでした。

（つづく）

関谷はやと

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