職人技を手に入れる方法
From:関谷はやと
三栄自動車の事務所にて。
世界を代表するロックスターといえば、
間違いなく『エルヴィス・プレスリー』でしょう!
そのプレスリーが乗っていたといわれる、
1957年式のBMW507という車が、
数年前に、その後の所有者の納屋で、
ボロボロの状態で発見されました。
そのBMWが2年ほど前から、
BMWの本国ドイツに引き取られて、
『レストア』という作業が施されていたところ、
このほど完成して、
8月21日に初公開される運びとなったそうです。
どんな仕上がりになっているのか楽しみです!
ところで、、
この『レストア』という作業について、、
どういった作業なのかというと、
車の内外装、エンジンなどの機能品を取り外して、
一つ一つをバラバラに分解したうえで、
整備や修理・再塗装を施し、もう一度組み立てて、
当時の新車に限りなく近い状態に再生させる作業です。
このレストア作業って、
とても手間がかかる上に、高度な技術力が必要な作業です。
高度な技術力といっても、
最新のコンピューターがどうとか、
精密機械を組み立てるとか、
そういった部類の技術力じゃなく、
前回お話したような、
どちらかといえば、
錆びきった金属、朽ちたゴム・プラスチックなどの、
材料そのものを扱ったり、
古い機械の仕組みを再生させたり、
塗装をしたりする方の技術力です。
つまりレストアという作業は、
基礎的な技能や知識を身に付け、
それに磨きをかけた技術者が、
当時の歴史的背景を理解した上で、
初めてできる作業なんです。
そういった意味では『究極の職人技』といえます。
しかし、どんな職人も、
最初からこんなことが出来てた訳じゃなくて、
そこに到達するまでの道のりとして、
様々な作業を順に取得していくんです。
たとえば、
鉄板に穴をあける作業には、
『ドリル』という工具を使います。
ドリルが新しいうちは、
鉄板にドリルを当てたけで、
少しの力でも難なく穴が開きます。
本当にあの硬い鉄板が、
スルスルと不思議なくらいスムーズに、
穴が開いていくんです・・
しかし!
ドリルの先端は刃になっていて、
穴を開けていくうちに当然刃が摩耗します。
そうなると、
ドリルの刃先を力いっぱい押し付けても、
硬い鉄板はびくともしません。
そのため、
時々『刃を研ぐ』作業というか、
工具のメンテナンスが必要になってくるんです。
『グラインダー』と呼ばれる研磨機を使って、
先端が摩耗したドリルの刃を研ぎます。
実はこちらの方が、
穴を開ける作業よりも、
数倍の技術力が必要なんです。
ドリルの太さや鉄板の厚みに合わせて、
研ぐ刃の角度を調整しなければいけません・・
もちろん三栄自動車でも、
ドリルという工具を何種類か持っていて、
メカニックもドリルを使う作業をします。
まあ、以前に比べればその機会は減りましたが、、
それでも一応、
三栄自動車のメカニックは全員が、
ドリルを使って鉄板に穴が開けることはできますよ。
しかし、、
残念ながら、
『刃を研ぐ』ことができるメカニックが、
ベテラン以外、まずいないんです・・
僕が車のメンテナンスをやっていた頃、
空いた時間を見つけては、
この『刃を研ぐ』という作業を、
ほぼ毎日のようにやっていました。
様々な厚みや硬さの異なった鉄板を相手に、
その成果を試します。
最初のうちは、
刃を研ぐ前より切れ味が悪くなったりして、
穴が開けられなくて泣きそうになりました。
そんなことを何百回、何千回と繰り返してきました。
そうやって、
『素材と対話する』能力を身に付けていくんです。
おかげで今でも、メカニック達から、
「穴が開かないんですけど・・」と訴えてきても、
僕なら簡単に解決できます。。
周りから見ると、
そんなに難しくやってるように見えないんで、
あまり尊敬はされませんが・・(笑)
たしかに、
今の車のメンテナンスには、
僕が経験してきたような作業自体が減少したので、
それほど必要な能力じゃなくなりました。
でも・・
それが基礎技術力の低下につながらないかと、
少し複雑な思いもします。
そういった意味でも、
この『レストア』という作業に必要な技術力って、
貴重かつ注目に値する技術力だと思います。
こういった経験を重ねて、
職人技って初めて身に付くんですね。
関谷はやと
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