当時は禁じ手だった接着剤・・
車業界向けの日刊紙に、
車のボディーを組み立てていく工程で、
『特殊接着剤』の活用が広がっている、
という記事がありました。
ちなみに車のボディーというのは、
鉄板やその他の素材をプレス型で形成した
『パネル』と呼ばれる構成部品を接合して
組み立てていくんですけど、その際、
接着剤ではなくパネル同士の接合面を
溶かしてくっ付ける
『溶接』という方法が一般的で、
僕が今から30年ほど前にトヨタで
生産技術のエンジニアをやっていたのも、
まさにこのパネルを溶接して、
ボディーを組み立てていく部署でした。
接着剤の話に戻ります・・
溶接が一般的とはいえ当時でも、
走行時の振動でパネル同士のすき間から
異音が発生するのを抑える目的や、
水が浸入しないようにすき間を埋める目的で
接着剤は使われていましたが、
でもそれは、あくまで限定的な箇所
補助的な役割としてでした。
というのも、
ボディー工程の後の塗装工程では、
塗料などの溶剤が使われたり
ボディー全体に熱が加わったりするので、
接着剤だと溶剤や熱で変質して
接合面が外れてしまうという
可能性があったからです。
そんな中、
『スープラ』というスポーツカーで、
ハッチバック形状のバックドアを閉めると
リヤスポイラーを取り付けている土台が
へこんでしまうため、バックドアの裏側に
補強パネルを取り付けて欲しい、
という要請が来たんですね。
ボディー部門に要請が来たということは、
イコール、補強パネルは溶接してくれ・・
ということです。
ところが、
スポーツカーというのは軽量化のため
バックドアのパネル自体の厚みも非常に薄く、
裏側に補強材を溶接してしまうと、
素材同士が引っ張り合うことで、
どうしてもパネル表面に歪み(ひずみ)が
発生してしまうんですね〜
そこで、
接合面が溶け合い過ぎない程度、
つまり少しだけくっ付いた状態であれば、
歪みも少なくなるだろう、、と
色々な溶接条件で試してみるんですけど、
溶接が弱すぎると
バックドアを閉めた時の衝撃で、
補強材が外れてしまったりと・・
中々うまくいきませんでした。
その時、別のエンジニアが、
『瞬間接着剤でくっ付けてみましょう!』
と、溶接が専門の僕たちにとっては
『禁じ手』ともえいえる提案をしてきました。
このエンジニアもさんざん悩んだ挙句、
『金属でも強力に接着できる!』という
テレビCMの言葉を信じたんでしょうね・・
でも現実は、
パネルを型取った際に付着する
表面の油分によって接着剤が使えず
そのアイデアは、
1回の試作で無理なことが判明しました。
結局は、
補強材を溶接した後に発生する歪みを
職人さんに手直ししてもらうという、
昔ながらの方法に頼らざるを得ませんでした。
そんなことを思い出しながら、
時代とともに進化する接着剤の性能に
期待して記事を読んでいます。
関谷はやと
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